検査入院

施設に入所することになった独居高齢82歳男性Aさん 親族はいない

紹介状を貰いに内科受診に付き添った

長年糖尿病を患い、大きい病院に通っていた

前に血液検査の結果表を見せてもらったところ、私でも分かるくらい悪い数値が並んでいた

ということで医師を変えるにあたり注意事項を聞くのが目的だった

 

医師開口一番

数値はすごく悪く、しっかり検査して薬を変えるなど適切な治療をしたいとずっと伝えてきているが

聞き入れてくれない 検査入院について話すといつも言い合いになり話にならない

もう3年もこの調子だ 新しい薬も使えないし 3年も同じ薬を処方し続けている

薬が合っているのか、他の病気もあるのか分からない

診察室でいつも長い時間押し問答となり他の方の診察に影響が出ている

家族もいないみたいだし、お手上げだった

と言い出した

 

それを聞いていたAさん

早速怒りだした

入院は嫌いだ 薬はちゃんと飲んでいる

2週間も入院なんてもってのほかだ

私に対してはいつも温厚なのに、豹変し医師の話をまともに聞かずに騒ぎ始めた

毎回のことなので、医師もだんだん高圧的な物言いになっている様子である

 

風邪とか胃腸炎とか様子を見て自力で治るかもしれないが

糖尿病は怖い

見えない分 そしていろいろなところに影響を与える

現に酷い貧血でもある

悪くなって死んでもいいのか と聞くと「いい」といいながら

薬はちゃんと飲むし、病院通いもしっかり忘れない

本気で放置して死にたいわけではなさそうだ

 

医師も諦め、紹介状には 本人拒否のため検査は行えないので、詳しい状況は分からないと書くしかないと言い出し、診察は終わった

 

施設入所するには、病状をしっかり解明しておくことは必須だし、糖尿病は気を許してはならない病気である

是が非でも検査入院してもらわないとならない

 

診察室を出てから待合室で検査入院に必要性について話すことにした

噛み砕いて ゆっくり 説明した

「今の薬では良くならないみたいで、今時の新しい薬に代えるには検査しないと使えないんだって

そのための検査だって 切ったり縫ったりするわけではないし、3食食べてゆっくりしてよ

病気で入院じゃないんだから、ベッドで寝たきりでもないし、気軽にさっ」

と話したら

「いままでそんなこと聞いていない」

「いやいや、私今日初めて聞いたけれど、そういってたよ」

「貧乏人だからお金が無いかもしれない」

「マンション売るんだから今はあるから大丈夫だよ」

 

早口で威圧的に話す医師の話に理解が追い付いていなかったのだ

たぶん、入院というキーワードに不安だけが大きくなり拒絶していただけだった

私が一緒に手続きとか話聞くから心配しないでいいからね 任せて

ここ1か月ほどの付き合いではあったが、かなりの心配性であることも分かっていた

理解できた途端、入院を前向きにとらえるようになり ついに入院する気になった

30分もしないうちに、診察室にもう一度入り、検査入院の意思を医師に伝えることになった

 

80歳を超えると、どうしても脳の処理能力が落ちる

家族と共に受診するならば、家族が代わりに聞き家で説明することもできるが

親族のいない独居高齢者はそうはいかない

逆に嫌と思うフレーズだけ記憶に残し、世界を肥大化し拒絶の方向に舵を切る

医療説明だけではないが 高齢者への説明扱いは特別だと思っておく必要性は感じる

医師に、忙しい外来時にゆっくり噛み砕いて相手に合わせて説明を求めることは難しいのかもしれない

とはいえ

今回のように ちょっとの行き違いで 3年もの月日の間 適切な医療が受けられない事態はどうしたもんか

増々増える超高齢で独居者が溢れる社会に

もうひと手間の配慮 もうワンクッションの人材が必要だと あらためて強く感じた出来事だった