ピアノ

私が幼い頃の女の子の習い事の定番は「ピアノ」だった

田舎にもかかわらず、周りの女子友達は皆習っていた

私もいつの間にかアップライトの黒いピアノが買い与えられた

庭の畑で育てた野菜メインの粗食な食生活で暮らす木造平屋の小さな家に、その黒い物体は君臨していた

中学2年まで習っていたがもちろん上達もせず、そのまま黒いアップライトピアノは埃をかぶり何の足しにもならない置物となった

そのまま数十年間古い木造の実家に置かれているうちに、その床が沈みだした 実家が傾いたら大変と私が引き取った

茨城から神奈川まではるばる運ばれてきた

ピアノの裏を見ると、ご丁寧に「49万円」と購入した日付と金額まで黒マジックで書かれていた

当時の49万円はとても高価だ

よくまぁ、田舎のサラリーマン家庭で身の丈に合わない代物を買い与えたもんだ

私がピアノを習いたいとせがんだ記憶はない 母親の希望というか見栄というかだと思うが

落ち着きのない私に集中力をと考えて習わせたと言っていた

そんな高価なものを親の前で処分することは出来ず運んできたが、案の上、置物+物置になっている

いつかはタダ同然であろうこのピアノを処分しないと 私の終活だ

 

仕事柄高齢者のお宅に伺うことが多い

80歳も過ぎると、どこのお宅もかなりの割合で物であふれている

中には

家具や物(ごみ)が多くて歩くところしか空いていない家なのに、掃除機は最新の物を買って欲しいと頼まれたこともあった

また時に遠方に住む親族が、久しぶりにやってきて同席するときもあるが、決まって「とても散らかっていて申し訳ないです」と言う

「大丈夫です、床見えてますので、まだ普通です。気にしないでください~」

なんていうコントなやり取りも交わす

 

ここのところ出くわすのは

古い所有のマンションの室内にある黒いアップライトのピアノだ

物が溢れている中、ピアノが埋もれている もちろん埃まみれ

エレベーター無しの3階だったり先日は同じくエレベーター無の4階だった 階段も狭い

どうやって運び入れたのだろう 人力か?クレーンか?

所有者は、すでに施設に入所されていたりで、弾くことはない

 

一応施設に入所されている所有者に伺った

「ピアノどうしますか?」

「どこか寄付だったら喜んでもらえないかしら?公民館とか児童館とか」

今時、受け入れ先を探す方が大変なような気もする

説明するのも厄介なので、生返事をするしかない

 

よくTVCMで

「ピアノ売ってちょうだい~♬みんなまーるく○○ピアノ~♬」

新聞広告も見受けるが、ビンテージものならそれなりだが普通のアップライトなら良くて数万だ

どうちにしろ搬送費は持ち出しと考えると、持って行ってもらってラッキーな代物に成り下がっているのが現状である

でも、思い出が詰まっているから厄介なのも事実

 

ピアノの廃棄

クレーンで運びだしたり、専門業者にお願いしないとだし人工もかかる

費用もばかにならない

自分もいつかは処分しないとと思いつつ

思い立って久しぶりにピアノを弾いてみた

ところどころ、沈んだ鍵盤が戻らない状態だし

白い鍵盤は日焼けで黄ばんでいる

いつの間にか鍵盤にドレミのシールが貼られている(息子の練習のためか)

楽譜をひっぱりだして弾いてみた

まあまま指は動いた 現役時代に弾けていた曲がだ

不思議だ

と同時に懐かしさも沸き上がった

余り好きではない、ピアノのお稽古だったが懐かしさはあるようだ

写真の整理に似ているかも

こうやって終活は進まないのだろう

 

自分の終活 キッパリ始めるために「何歳になったら、この状態になったら」と アラ60が見えてきた今

車の運転免許証の返上

現役での仕事の幕引きタイミング

持ち物の廃棄

お金の整理

お墓の話、施設入所の意思表示を家族に伝える

などなど

考え整えることは山積みだ

高齢の方を多く見てきているからこそ、背筋がヒヤッとしている

 

と揺れつつ ”やるぞ” としっかり心に誓うことが、今の私には精一杯の終活である